June 5, 2025

グローバル税制改革の波、日本越境EC事業者に迫る変化とは?

2025年5月、アメリカが導入した「対等関税」のうち、日本に対する追加措置は今回の通商交渉では見送られ、現行維持が発表された。米中間の関税合戦が激化する中、日本との関係は比較的安定しているように見えるが、これが日本の越境ECにとって「静かな追い風」となるかは疑わしい。

なぜなら、世界各国はすでに独自の方向で小口輸入に対する課税強化へと舵を切っており、日本の事業者もその影響から逃れることはできないからだ。アメリカでの動きが象徴するのは、むしろ「グローバル税制再編」の始まりであり、EU・日本・カナダ・オーストラリアなど、先進国を中心に税制の大転換が同時進行している。

特にEU税制改革が日本の越境EC事業者に与えるインパクトは大きく、今後のビジネスモデルや物流戦略を根底から見直す必要があるだろう。

 

Global

 

EUの固定課税導入、小口配送に打撃

EUでは2025年から段階的に小口輸入品に対する免税制度を廃止し、2026年をめどに以下のような固定課税制度が導入される:

  • 直送(ドロップシッピング)形式:2ユーロ/件

  • EU域内倉庫を経由する形式:0.5ユーロ/件

この制度は、アニメグッズやフィギュア、コスメなど日本から送られる商品価格が10〜30ユーロの範囲であることが多い現状において、**送料とは別の「商品単位課税」**として確実に利益を圧迫する。

例えば、申告価格が3ユーロの商品に対して2ユーロの税金がかかると、税率換算で**実質66.7%**となる。日本の中小事業者が主に扱う軽量・低単価商材には極めて厳しい内容だ。

 

日EU間の貿易構造にも影響

一方で、自動車をはじめとする耐久消費財については、2018年のEU-日本EPA(経済連携協定)により、2026年までにEUが日本車への10%関税を完全撤廃する予定となっている。これはトヨタ・ホンダなどにとっては明らかな追い風であり、欧州市場での価格競争力強化が見込まれる。

しかし、この「大型商品に対する追い風」と「小口商品に対する向かい風」が同時に存在することで、日本の輸出構造にも分化が起きつつある。特にEC業界においては、小口直送から倉庫経由、さらには海外現地化モデルへの移行が求められている。

 

日本国内の制度改革も追い討ち

さらに注目すべきは、日本自身も欧州と同様に「小口免税制度の見直し」に着手している点だ。2026年以降、日本では以下のような税制改正が予定されている:

  • 1万円以下の輸入商品に対する消費税免除の廃止

  • Amazonや楽天など大手プラットフォームに税の代行徴収を義務化

これにより、日本国内の越境EC事業者が欧州向けと日本向け両方で税制対応を強化せざるを得なくなっており、税務管理・インボイス処理・販売価格調整といった運用面のコストが大幅に上昇することが予想される。

 

運用面での課題と打開策

①物流モデルの見直し

  • 直送モデル→海外倉庫経由

    直送(2ユーロ)と比べ、EU域内倉庫経由であれば0.5ユーロで済むため、大量出荷型の事業者は海外倉庫の導入が現実的な選択肢となる。

  • 海運とコンソリデーションの活用

    航空便から海運コンソリ(混載)へシフトすることで、商品単価に対する関税負担を抑えつつ、物流効率を高める方法も有効。

②税務管理の高度化

  • IOSS番号の取得

    EU向け商品(150ユーロ以下)においては、IOSS(輸入ワンストップショップ)番号の登録が必須となり、これがないと税関での通関遅延や追加費用が発生する可能性がある。

  • JCT登録の見直し

    日本国内でも簡易課税制度が廃止され、標準的なJCT番号の取得と、正確な納税が求められる。特に複数地域にまたがる販売を行う場合、システム統合も視野に入れるべきだ。

 

日本ブランドはチャンスもある

EU税制改革は「中国発の低価格商品」への対抗策という側面も強く、TemuやSHEINなどに依存していたユーザーの一部が**価格以外の要素(品質・ブランド・配送の信頼性)**を重視する流れも出てきている。

この変化は、日本の中高価格帯商品にとって大きなチャンスとなる。無印良品、ユニクロ、資生堂など、日本ブランドが欧州市場でプレゼンスを強めるには、まさに「今がタイミング」と言えるだろう。

 

結論:今こそ“合規×柔軟性”の時代へ

グローバル規模の税制改革は、「野放しの越境EC時代」に終止符を打つものであり、**法令順守(コンプライアンス)と供給網の柔軟性(サプライチェーンレジリエンス)**が新たな競争軸となっている。

日本の越境EC事業者にとっては、税負担増というネガティブな要素以上に、ブランド価値と信頼性を武器にした再構築のチャンスでもある。海外倉庫、プラットフォーム税対応、商品戦略の再設計といった領域で早期対応を進めることが、次の成長を掴む鍵となるだろう。