January 27, 2025
トランプ2.0 – 「アメリカを再び偉大に」したその後、私たちにチャンスはあるのか?
トランプ大統領就任、越境ECが直面する課題とチャンス
2025年1月20日、アメリカ新大統領ドナルド・トランプ氏が正式に就任し、就任演説を行いました。その中で、再びアメリカの貿易制度を「改革」することや、外国からの輸入品に高関税を課す可能性を強調し、世界市場の注目を集めています。
アメリカ市場を主力としている越境EC販売者にとって、トランプ氏の就任後に打ち出される政策や貿易の動向は、ビジネスに深い影響を及ぼすことは間違いありません。
本記事では、トランプ氏の就任演説の要点を踏まえ、最近の出荷量急増、TikTokの禁止措置の延期、さらには関税政策における「発言多く実施少ない」現状を組み合わせながら、越境EC事業者がどのように対応すべきかを探ります。
1. 就任演説の焦点:「関税」と「製造業回帰」の再強調
トランプ大統領は就任演説で、アメリカの労働者と家庭を保護するために貿易制度を改革したいと述べ、「外国に関税を課すことでアメリカ国民を豊かにする」と宣言しました。この発言は決して空虚なものではありません。彼は選挙期間中から再びホワイトハウスに戻るまでの間、関税を通じて財政収入を増やし、国内の税負担やインフラコストを軽減すると繰り返し主張してきました。
また、アメリカを「再び製造業大国にする」と誓い、自動車産業をはじめとする製造業を国内に留めることや、原油・天然ガスなどエネルギー開発の加速にも言及しました。これにより、今後のアメリカ市場は「国内生産」を重視し、非アメリカ製品の輸入に対する規制やハードルが高くなる可能性が示唆されています。
越境EC事業者にとって、アメリカが実際に高関税を採用した場合、コストが上昇するだけでなく、これまでの価格競争力が弱まり、利益率が圧迫されるリスクがあります。したがって、アメリカの新しい政策を継続的に追跡し、迅速かつ柔軟に調整することが不可欠です。
2. 「関税前の駆け込み出荷」:アジア発アメリカ向け貨物量が過去最高を記録
興味深いことに、トランプ氏が関税引き上げを声高に主張している一方で、「関税適用前の駆け込み出荷」の動きが2024年12月にアジア発アメリカ向けの貨物量を過去最高に押し上げました。Descartes Datamyneの統計によると、2024年12月のアジアからアメリカへの海上輸送コンテナ量は前年同月比で14%増加し、171万6,604TEU(20フィート標準コンテナ換算)に達しました。これは16か月連続の増加であり、同時期としては過去最高を記録しました。
特に中国からアメリカへの輸送量は17%増加し、ベトナムも13%の増加を見せました。これらは、各国がトランプ氏の関税引き上げ政策の影響を懸念し、政策実施前に出荷を急いだ結果だと考えられます。多くの貨物輸送会社が、「通常閑散期となる第4四半期が年末までに繁忙期となり、予約量が予想を大幅に上回った」と報告しています。
越境EC事業者にとって、すでに増税前に在庫を補充している場合、現時点では比較的低コストの恩恵を受けることができます。しかし、現有在庫が徐々に消化され、新たな関税が適用されると、コスト構造の変化は無視できない問題となるでしょう。
3. TikTok「禁止令」の再燃:越境ECの流量チャネルに不確定要素
トランプ大統領は就任後間もなく、TikTokのアメリカ国内での運営許可を再審査するよう求める大統領令に署名しました。これは、トランプ政権がTikTokに対して行動を起こした初めての例ではありません。前政権時にも同アプリの禁止や制限を試みましたが、最終的には裁判所により差し止められました。今回のトランプ氏の再登場により、TikTokは再びアメリカ市場での運営が危機にさらされており、75日間の「猶予期間」が与えられた中で、アメリカ商務省の調査報告を待つ状況です。
越境EC事業者にとって、TikTokは重要なマーケティングおよび販売チャネルとなっています。特に短編動画が主流となる現在、アメリカ市場の若年層ユーザーはTikTokに対する高い利用率と依存度を示しています。もしTikTok禁止令が実際に発動されれば、事業者は効率的な広告や販売の手段を失う可能性があります。ただし、トランプ氏はこれまでにも法的および議会での抵抗に直面しており、現在も交渉が続いているため、越境EC事業者は今後の事態の推移を注意深く見守るとともに、代替となるマーケティングチャネルの準備を進める必要があります。
4. 「関税戦争」の行方:加税を叫ぶも、まだ実行せず
過去にトランプ氏が関税について発言した内容を振り返ると、中国、メキシコ、カナダなど主要な貿易相手国に対して最大25%、さらには60%に達する高関税を課す意向を示し、「国家非常事態」や「対外税務局」の設立を通じてその実行を図ると宣言していました。しかし、最近の報道によれば、トランプ氏は就任初日に関税引き上げに関する具体的な大統領令には署名せず、まずは連邦機関に対して現行の貿易協定の履行状況を評価するよう指示したことが明らかになっています。これは、トランプ氏が「まず交渉、その後制裁」を選択肢としている可能性が高いことを示しています。
このような「発言が多いが、実行は少ない」というスタイルは、トランプ氏の交渉戦術と見られます。まず高圧的なメッセージを発信することで、今後の交渉において有利な立場を獲得しようとしていると考えられます。
越境EC事業者にとって、こうした一時停止や観察期間の動きは一定の猶予時間を提供するものの、高関税やより厳しい貿易障壁が完全に消えるわけではありません。将来的に交渉が決裂した場合、アメリカが関税制裁を発動する可能性は依然として残されています。そのため、アメリカの政策動向を注視しながら、サプライチェーンの多様化やリスク分散を考慮することが重要です。
5. 越境EC事業者への対応策
- 政策動向を注視し、早めの在庫確保を
12月のアジア発アメリカ向けコンテナ量の過去最高記録は、関税政策への恐慌的な注文の影響を反映しています。今後、トランプ大統領が本当に関税を引き上げた場合でも、十分な在庫を確保しておくことで影響を緩和できます。一方で、関税が延期されたり、交渉が予想外の方向に転じた場合でも、需要が高まる市場で在庫切れを避けられます。 - 商品ラインの最適化と価格戦略の調整
関税によるコスト上昇は、価格設定に直接影響を与える可能性があります。アメリカ市場では消費者の価格感度が高いため、商品に付加価値を加えたり、利益率を見直し、商品ラインアップを再構築することが重要です。 - 販売・マーケティングチャネルの多様化
TikTok禁止のリスクに対応するため、Meta(Facebook、Instagram)やYouTube、その他の短編動画アプリなど、多様なソーシャルメディアと広告プラットフォームを活用することを推奨します。これにより、特定のプラットフォームに依存せず、マーケティングチャネルの安定性を確保できます。 - サプライチェーンのバックアップと協力体制の構築
不確実性を軽減するために、東南アジア、南アジア、メキシコなど、異なる国や地域に倉庫や生産拠点を設けることを検討してください。これにより、輸送時間の短縮や、関税政策が変動した際に柔軟に供給元を切り替えることが可能になります。
「アメリカを再び偉大に」…果たしてその恩恵は?
トランプ大統領の就任演説は、貿易や製造業に対する強硬姿勢を再び浮き彫りにしました。しかし、12月の前例のない貨物量増加やTikTok禁止令の遅延、「初日には具体的な関税を発動しなかった」といった状況から、実際の政策実行はスローガンほど単純ではないことが分かります。トランプ氏は「極限の圧力」を交渉戦略として活用し、関係各所を不安と緊張状態に置くことに長けています。
越境EC事業者にとって、アメリカ市場には依然として大きな消費力がある一方、政策がさらに保護主義的な方向に進む場合、コストや市場参入のハードルが高まることは避けられません。そのため、事業者はホワイトハウスの動向を注意深く追い続けると同時に、サプライチェーンの多様化、マーケティングチャネルの最適化、価格戦略の強化といった備えを進めることが求められます。
現在のアメリカが迎える「新たな黄金時代」は、世界秩序を再構築するものとなるのか、それとも既存の貿易体制を揺るがすものとなるのか。その答えは時間が証明するでしょう。しかし、越境EC事業者にとって、この変化の時代に油断は禁物です。