December 18, 2025

なぜあなたの荷物は税関検査に止められるのか?

なぜあなたの荷物は税関検査に止められるのか?

米国・欧州向け輸出における「税関検査(抽査)」の仕組みを完全解説【日本事業者向け】

米国や欧州向けに商品を輸出している日本の事業者であれば、一度はこんな経験があるかもしれません。

「同じ商品なのに、ある時はすぐ通関するのに、ある時は税関で止められるのはなぜ?」

実は、税関検査は決して運任せではありません。そこには、各国共通のリスク管理ロジックが存在します。本記事では、日本のEC事業者・輸出事業者向けに、米国・欧州の税関が「なぜ・どのように」検査を行うのかを、専門知識がなくても理解できる形で解説します。

 

1. 税関検査は「嫌がらせ」ではない

まず大前提として理解しておくべき点があります。

税関の役割は、次の3つに集約されます。

  • 正しい関税・税金の徴収

  • 消費者の安全確保(製品安全・食品安全)

  • 禁制品・模倣品・高リスク貨物の流入防止

つまり、税関は全ての貨物を検査することが目的ではありません

限られた人員と時間の中で、

「リスクが高いと判断された貨物」だけを重点的にチェックする

これが、現在の米国・EU共通の考え方です。

 

2. 税関が見ているポイントは実は4つだけ

① 申告情報に矛盾がないか

最初にチェックされるのは書類とデータの整合性です。

  • 商品名は具体的か

  • 申告価格は不自然に低くないか

  • 数量・重量・金額が書類間で一致しているか

書類同士が食い違っているだけで、リスク判定は一気に上がります。

② HSコード・価格は妥当か

よくある検査理由は以下です。

  • HSコードの誤り、または曖昧な分類

  • 市場相場とかけ離れた低価格申告

特に、長期的に「同一商品が極端に安い価格で申告されている」場合、

システム上で高リスク扱いになります。

③ 規制対象商品かどうか

以下の商品は、世界共通でリスクが高いカテゴリです。

  • 食品・健康食品

  • 医薬品・医療機器

  • 化粧品

  • 電子機器(電池・Bluetooth・Wi-Fi搭載)

  • 子ども向け製品

これらは「売ってはいけない」のではなく、

必ず確認される前提で扱われる商品です。

④ 安全・知財・禁止リスクがないか

  • 模倣品・ブランド侵害の疑い

  • 危険物の未申告

  • 制裁・禁輸・特定原産地に関するリスク

この領域に入ると、抽査ではなく重点検査になります。

 

3. 「ランダム抽査」は存在するが、本質ではない

税関には一定割合のランダム検査があります。

しかし、実務上の大きな遅延やトラブルは、

リスク判定により検査レベルが引き上げられたケース

で発生します。

つまり、

「当たったかどうか」より

**「なぜ引き上げられたか」**が重要です。

 

4. どんな商品が検査されやすいのか(一覧)

リスク区分 商品例 リスク 主な理由
食品・健康食品 🔴 人体への影響、安全基準確認
医薬品・医療機器 🔴 許可制・資格制
子ども向け製品 🔴 化学物質・安全基準
中高 電子製品(電池・無線) 🟠 電池安全・電波規制
多品目混載 🟡 判別が困難
低~中 一般消費財 🟢 主に申告内容の確認
特高 ブランド商品 🔴 知的財産権保護

 

5. 税関検査は「段階的」に強化される

税関検査は、いきなり開梱されるわけではありません。

  1. 書類・データ確認

  2. 非侵入型検査(X線など)

  3. 開梱検査

  4. サンプル検査・主管官庁審査

多くの貨物は、①か②で止まります

④まで進むケースは、主に規制対象商品です。

 

6. 抽査された場合、どれくらい時間がかかる?

目安としては以下の通りです。

  • 書類補完のみ:数日~1週間

  • 開梱検査:1~2週間

  • サンプル検査・認可待ち:数週間以上

重要なのは、

**遅延の原因は「検査」ではなく「説明不足・書類不足」**であることが非常に多い点です。

 

7. 通関方式について(重要な制度変更)

🇺🇸 米国:小額免税はもはや安全地帯ではない

かつて広く利用されていた

**800米ドル以下の小額免税(いわゆる T86 的な運用)**は、

2025年以降、中国・香港原産貨物には適用されなくなりました。

つまり、

低価格=低リスク、という時代は終了しています。

🇪🇺 欧州:150ユーロ免税も終了予定

EUでは現在、150ユーロ以下の関税免除がありますが、

2026年に制度廃止が決定しています。

今後は、

欧州でも小包=通常輸入と同等に管理される

という前提での運用が必要です。

 

8. 検査は避けられない。だからこそ「準備」が重要

最後に、最も大切なポイントです。

税関検査は存在し、回避できません。

繁忙期であっても、急ぎの案件であっても、

税関が手を緩めることはありません。

だからこそ、日本の輸出事業者に求められるのは:

  • 書類を最初から正確に整える

  • 商品内容を明確に説明できる

  • 規制対象品は事前に資料を準備する

  • 現地事情を理解した物流パートナーを選ぶ

物流会社は、

検査を止めることはできません。

しかし、検査が発生した後、

問題を整理し、資料を揃え、解決まで伴走することはできます。

それが、これからの越境物流における本当の価値です。