February 17, 2025

T86撤廃の余波が冷めやらぬ中、今度は「対等関税」!?

アメリカ政府はT86政策の撤廃を一時的に見送ったばかりですが、新たに「対等関税(Reciprocal Tariff)」という衝撃的な政策を打ち出しました。

最新の覚書において、トランプ大統領は「対等関税」計画の推進を発表。簡単に言えば、「相手国がアメリカ製品に課す関税と同等の関税を、アメリカもその国の商品に課す」というものです。

この政策が適用されれば、アメリカに高い関税を課している国の輸出品に対して、アメリカも同じレベルの関税を課すことになり、貿易条件の公平性を確保する狙いがあります。

この動きは、トランプ氏の掲げる「アメリカ・ファースト」政策の延長であり、アメリカの巨額な貿易赤字を削減し、不公平な貿易慣行を抑制しようとする強い意志が込められています。今後の国際貿易にどのような影響を与えるのか、注視が必要です。

 

T86撤廃から対等関税へ:越境EC業者に再び打撃

アメリカがT86政策(少額貿易の免税枠)の撤廃を一時的に見送った際、すでに越境ECプラットフォームに大きな影響を与えていました。TEMUやSHEINなど、高コストパフォーマンス商品を主力とするプラットフォームでは、アメリカ市場での売上が明らかに減少しており、アメリカの関税・免税額の調整が越境ECに与える影響の大きさが浮き彫りとなりました。そんな中、「対等関税」政策はまだ正式に施行されていないものの、すでに世界中のセラーに大きな不安を与えています。アメリカ商務長官候補のハワード・ルートニック(Howard Lutnick)氏によると、対等関税に関する具体的な計画は4月1日までにトランプ大統領へ提出される予定で、承認されれば最短で4月2日から施行される可能性があります。この政策が実施されれば、他国がアメリカ製品に高い関税を課している場合や、アメリカが貿易障壁(付加価値税や補助金など)を不公平と判断した場合、その国の輸出品に対してアメリカも同等の関税を課すことになります。この動きは世界のサプライチェーンやEC物流に大きな影響を及ぼすと予想されており、今後の動向に細心の注意を払う必要があります。

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「対等関税」の核心概念

貿易の公平性の原則: ある国がアメリカ製品に高い関税を課した場合、アメリカも同様に高い関税を課すことで、アメリカ企業の国際市場における競争力を維持する。

貿易赤字の削減: トランプ政権は、巨額の貿易赤字の原因を「関税の不均衡」と考えており、「やられたらやり返す」方式で他国にアメリカ製品への関税引き下げを迫る狙いがある。

不公平な貿易慣行の抑制: 一部の国(例:中国)は関税を活用して自国企業を保護し、アメリカ製品の輸入に障壁を設けている。トランプ大統領は「対等関税」を通じて、こうした国々に市場開放を促したいと考えている。

グローバルサプライチェーンへの影響: アメリカと他国が互いに関税を引き上げれば、対米輸出コストが増加し、世界の生産拠点の再編が加速する可能性がある。これにより、越境EC物流の運営も大きな課題に直面することが予想される。

 

トランプ政権の「対等関税」政策は、工業製品や自動車部品だけでなく、半導体や医薬品といったハイテク分野にも影響を及ぼす可能性があり、各国に緊張が広がっています。近年、アメリカは国内の工業製品の輸入関税を大幅に引き下げ、加重平均関税率を約2.2%に抑えてきました。 しかし、多くの新興市場やアジア諸国(インド、韓国など)は、アメリカ製品に対して高い関税を課しており、今回の「対等関税」が実施されれば、輸入コストの上昇は避けられません。その結果、以下の影響が懸念されています。

物価上昇
関税コストは最終的に小売価格へ転嫁されるため、輸入業者や小売業者が価格を引き上げれば、アメリカ国内のインフレ圧力がさらに強まる可能性があります。
サプライチェーンの再編
グローバル企業は高関税を回避するため、アメリカ国内での生産能力を拡大する可能性があります。しかし、短期間でのコスト管理や生産ラインの調整は大きな課題となり、拙速な対応は供給不足やサプライチェーンの混乱を引き起こすリスクも孕んでいます。
越境 EC リスクの増大
近年、少額貿易の免税枠を活用してアメリカ市場を開拓してきたECプラットフォームやセラーは、通関コストの上昇に直面する可能性が高まります。
適切な物流戦略を迅速に調整できなければ、注文の減少や価格設定のジレンマに陥るリスクが避けられません。「対等関税」政策の実施は、世界の貿易環境に大きな影響を与えることが予想され、今後の動向に注視する必要があります。

 

果たして実行されるのか?

市場では、トランプ氏の「対等関税」について、「大きな話題だが実際の影響は限定的」との見方もあります。実際の実施には数週間から数ヶ月の調査や交渉が必要であり、トランプ氏は高圧的な交渉手法の中で、最終的に外交的・貿易的な譲歩を引き出すための余地を残している可能性があります。しかし、たとえ関税がまだ発動されていなくても、その脅威だけで企業の投資や調達の判断が慎重になり、アメリカ市場への進出を躊躇したり、生産拡張計画を延期するなど、国際貿易やサプライチェーンの不安定要因が増すのは間違いありません。

越境EC業者・物流業界への対応策:

  • 供給チェーンの早期最適化: 多国籍倉庫の設置や、信頼できる物流パートナーとの提携を強化し、不測の事態に備える。
  • 商品ラインナップと市場展開の調整: 各市場の関税や需要の変動を評価し、リスクを分散させる。
  • 関税予算の確保: 利益率を再計算し、関税リスクに備えた十分なマージンを確保する。

 

「対等関税」の登場により、グローバルな越境貿易は再び大きな影響を受けることになります。売り手にとっては、短期的な政策の変化に対応するだけでなく、長期的な視点で供給チェーンの安定性と競争力を維持することが不可欠です。アメリカは世界最大の消費市場であり、その政策の変動は国際貿易全体に大きな影響を与えます。この不安定な状況の中で、いかに柔軟に対応し、ビジネスを継続・拡大できるかが、越境EC業者の生存と成長のカギとなるでしょう。